東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)21号 判決
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〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三十五年十一月十七日、「電解二酸化マンガンの製造法」について特許出願をしたところ、昭和三十八年三月十二日拒絶査定を受けたので、同年四月十日、これに対する審判を請求し、昭和三八年審判第一、六一七号事件として審理され、昭和四十三年九月十一日出願公告(昭和四三年特許出願公告第二一、一七五号)があつたが、日本鋼管株式会社ほか三名から特許異議の申立があつた結果、昭和四十五年一月九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その騰本は同年同月二十八日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
硫酸マンガン溶液の電解により二酸化マンガンを製造するに当たつて物理的方法により陽極としてのチタニウム板の酸化フイルムを除き粗面となし、かつ、電解液中の硫酸濃度を五%以下に保持して電解を行なうことを特徴とする電解二酸化マンガンの製造法。
三 引用例の要旨
大阪大学工学報告第六巻(昭和三十一年十月三十日発行)三百五十九頁から三百六十六頁(以下「引用例」という。)には、チタニウムを陽極とする硫酸酸性硫酸マンガン溶液の電解による二酸化マンガンの製造研究に関する報文が掲載されているが、その「短時間電解における遊離硫酸濃度の決定」と題する項には、電解液の硫酸濃度が1.2規定以下であるとき良好な電流効率で鈍度の良い二酸化マンガンが得られたことが示され(第一図及び第一表のデータ)、また、「チタニウムの不動態に関する考察」の項には、該研究の各実験において、チタニウム陽極を電気化学的に前処理し、それによつて酸化物被膜を除去したことが記載されている。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決には、その主張の点に判断を誤つた違法があり、取り消されるべきものであると主張するが、その主張は理由がないものといわざるをえない。
(一) 電解二酸化マンガンの製造に当たり、表面を粗面としないチタニウム板を電極として用いた場合には、原告主張のような障害が生ずること、及び本願発明が、チタニウム板の表面をサンドブラスト等の物理的方法によつて粗面化することにより、電解によつて生成した二酸化マンガンがチタニウム極板の表面に強固な電着物として密着し、極板表面に酸化フイルムを生成する余地をなくし、長時間の電解を可能としたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 原告は、引用例には、本願発明におけるチタニウム板の表面を粗面とする技術思想は全く示されていないと主張するが、引用例に「短時間の電解によりチタニウム陽極に生じた不動態フイルムは、陽極表面をエメリーペーパーで研摩することによつて除かれる。」との記載があることは、原告の認めるところであり、この記載によれば、チタニウム陽極表面の酸化フイルムをエメリーペーパーによる研摩という物理的方法によつて除去しうることが引用例に示されていることは明らかで、右の研摩により、チタニウムの表面が多かれ少なかれ粗面の状態を呈しうることは、研摩のもたらす必然の経過として、容易に知りうるところである。もつとも、引用例によれば、引用例には「長時間の電解によつて生じた不動態フイルムは、このようなやりかたでは取り除くことはできない。」旨の記載のあることは、原告主張のとおりであるが、そうであるからといつて、引用例に上記のような示唆が含まれていることを否定できないことは、本件審決が説示しているとおりである。
(三) 原告は、引用例における「研摩」とは、物体の表面を平滑で光沢を持つ状態とすることを意味すると主張するが、本願発明の特許公報によれば、本願発明の明細書の詳細な説明においては、「研摩」とは、チタニウム表面の酸化フイルムを除去し、粗面にすることを意味していることが明らかであるところ、同じくチタニウム表面の酸化フイルムを物理的方法で除去することを示す引用例の前記記載において、その「研摩」が、金属表面を鏡面のようにすることを意味するものと断ずることはできない。
(四) そして、エメリーペーパーが、コランダムと呼ばれる鉱物であるエメリーを柔軟性のラシヤ紙に附着させた研摩紙であることは、エメリーは元来、研摩材として万能であり、被研摩物の研摩量、仕上げの程度、被研摩物の性質等に応じて粒度、粒形を選択することにより、エメリーペーパーは、精密仕上用のほか、メッキ下地研摩、錆取り等にも用いられることが認められ、また、アルミニウム合金や銅、銅合金等がエメリーペーパーにより粗鬆化ないし粗面化されることが示されている。ことに、本願発明の明細書の発明の詳細な説明に、エメリーホイルによりチタニウムの酸化フイルムを除去し、粗面にしうることが記載されている(エメリーホイルがグラインデイングホイールの誤記であると認めるに足る資料は全くない。)点に徴すれば、エメリーペーパーによる研摩によつてチタニウム表面を粗面化しうることは否定することができない。原告提出の検甲第一号証、第三号証は、その表面が鏡面の状態を示すが、その研摩の過程において、切削痕を伴う粗面状態を経過しなかつたことはいうまでも証するには足らず、他に上記の認定を覆すに足る証拠はない。
(五) 次に、本願発明の方法によるときは、電解によつて生成した二酸化マンガンがチタニウム極板の表面に強固な電着物として密着し、極板表面に酸化フイルムが生成する余地がなくなり、長時間の電解を継続することができるという作用効果を奏しうることは、被告の認めるところであるが、引用例においても、長時間の電解により高純度の二酸化マンガンを得ることを目的としており、その一手段としてチタニウム陽極表面に前処理を施すことが記載されているのであり、エメリーペーパーによる研摩という物理的方法がその一手段として示唆されていること前認定のとおりである以上、上記の作用効果は引用例の方法においても予想された効果の範囲を出るものではなく、特段のものということはできない。
(六) 以上のとおり、本願発明における物理的方法によりチタニウム板の酸化フイルムを除去し粗面とするという技術思想は、引用例に開示されているものと認められ、また、本願発明の方法によつて奏せられる作用効果も特段のものということができないところであり、本願発明が、引用例の記載から、当業者の容易に推考しうるものとした、本件審決の判断には、違法の点はない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)